事業をする上で欠かせないのが、ペルソナの設定。
事業主ならどなたでも必ず一度は、「ペルソナシート」を埋めたことがあるでしょう。
しかしペルソナをどんなに細かく、リアルに設定して、ペルソナシートを細かい字でみっちり埋めても、全然商品が売れないというケースは多々あります。
ペルソナっぽい人に見向きもされない。
ペルソナとは程遠い、あまり歓迎したくないタイプのお客様ばかり来てしまう。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
それは、まず商品があって「この商品はこんな人に買ってほしい」という順番で作業しているからです。
本来の順番は、
「商品があって、ペルソナに売る」
ではなく
「ペルソナがいて、ペルソナが欲しがる商品を用意する」
です。
この記事では、多くの人が陥っている「誤ったペルソナ設定のやり方」の問題点を明らかにします。
そして、本来のやり方と、それによって何が起きるかを解説していきます。
一般的なペルソナ設定がうまくいかない理由
ペルソナはターゲットより細かく設定されるもの
ペルソナ設定は、マーケティングにおいては必ず行う作業です。
ターゲット設定が
・20代男性
・23区内在住
・未婚
といったしぼり方であるのに対し、ペルソナは、
名前、年齢、学歴、職業、年収、住んでいる地域、最近の悩み、よく見るメディア、趣味 etc・・・
と、細かく設定するのが特徴です。
ペルソナシート、ペルソナテンプレートと呼ばれるものに書き込む際は、顔写真も入れるのが通常です。
【参照】マイナビエージェント
【ペルソナとは】ビジネスにおける意味やメリット、設定方法を解説
ペルソナシートとは、ペルソナの特徴を細かく書いた資料
ペルソナシートを実際に埋めたものがこちらです。
ペルソナを設定する目的は、ニーズを明らかにすること、商品への訴求力を強めること、などが挙げられます。
また組織下においては、複数のメンバーで認識を共有できるというメリットもあります。
例えば、上記の「加藤文子さん」をペルソナにしているマッサージ院なら
「子どもを寝かしつけて寝落ちしてしまう毎日・・」
「寝た気がしない」
「疲れが取れない」
「でも翌日も朝から自転車3人乗りで保育園に行ってから出勤」
「ちょっとでも自分への時間を確保して体を休めたい」
「そんなあなたのために15分で終わる『疲労回復マッサージ』」
といったような訴求を考えることができます。
これをチラシにしたり、SNSで発信したり、ホームページに掲載したりします。
ペルソナ設定のやり方と応用方法についての説明は、ネット上にたくさんありますので、ここでは
「なぜペルソナ設定をやってもうまくいかないのか」
「なぜペルソナシートを埋めてはいけないのか」
について述べて行きます。
「商品を欲しがる人」をペルソナにするのが最大の誤り
ペルソナ設定をしてもうまくいかない原因の多くは、「この商品を買ってほしい人」という理想をペルソナにしていることにあります。
上記の例で言うと、マッサージ院に「15分で終わるマッサージ」という商品があって、
「この商品を欲しがるのはどんな人だろう」
と考えてしまう時点で、誤ったペルソナ設定をしてしまう可能性が高いです。
商品・サービスは、ペルソナの深い悩みを解決したり、願望を叶えたりするものです。
悩みや願望を明らかにし、
「こんな悩みがあるでしょう、あなたにはこの商品がピッタリですよ」
という訴求をできるだけリアルにするためにペルソナ設定をします。
しかし、ここがとても重要なところで、
消費者に「確かにピッタリだな」「いいかもな」と思わせることはできるとしても、その段階から、お財布を開いてお金を出させるところまではかなり高いハードルがあります。
つまり、「ちょっといいかも」くらいでは簡単に買わないのが消費者なのです。
そしてもっと言うと、消費者から見れば「ちょっといいかも」くらいの商品はたくさんあります。
だからこそ「ちょっといいかも」ではなく、「絶対に欲しい」と思わせられるように悩みや願望を明らかにしなければならないのですが、商品が先にあることで、商品の特性に沿った悩みや願望しか見ることができなくなってしまいます。
だから、「いい商品なのに売れない」「ペルソナに当てはまる人に紹介しても買ってもらえない」ということになるのです。
いい商品でも、そもそも買う気がない可能性もある
先ほどの加藤文子さんの例で言うと、15分マッサージを売っている整体院は、
15分マッサージを売りたいがために
「加藤さんはどうやって疲れを取りたいと思っているだろうか」
「加藤さんはどんな価格帯のマッサージなら買うだろうか」
と考えてしまいます。
確かにペルソナ・加藤文子さんは疲れていますし、マッサージもいいなと思うかもしれませんが、
「15分も自分の時間がとれるなら一人でスタバに行きたい」
と思っているかもしれません。
そうなると、いくら15分マッサージの素晴らしいコピーを書いても
「マッサージもいいけど、だったらスタバだな」と思われてしまいます。
このようなずれが生じてしまうので、どんなにペルソナシートを真っ黒に埋めても、どんなにリアルな人物設定にしても、商品ありきの時点でうまくいかなくなります。
誤ったペルソナ設定で生じる障害とは
「どんな人がうちの商品を買うだろう」と想像し、「うちの商品を買ってくれそうな人」をペルソナにすることで生じる弊害は大きく2つあります。
・リアルな悩みが引き出せない
ペルソナの悩みを把握することは、事業において欠かせません。
そのときに、「どうしたらこの人が買ってくれるか」という視点で悩みのヒアリングを行うと、生の声、リアルな声が引き出せなくなります。
整体師が患者さんに
「最近どんな悩みがあるか聞かせていただけますか?」
とヒアリングしたとしましょう。
患者さんだって人間ですし、配慮があります。「きっとこの先生はこういう答えを求めているだろう」と考えたり、「整体の先生に聞かれているんだから、体の痛みのことを答えないと」と思ってしまいます。
このような配慮がバイアスとなって、本当の悩みが聞き取れなくなってしまいます。
もしかしたら本当は、「駅の向こうにできた整体院にも行ってみたいけど悪いから言えないな」と悩んでいるかもしれません。
もしかしたら本当は、「お金がカツカツだからもう通いたくないんだよな」と思っているかもしれません。
しかしそんなことはとても言えないでしょう。
だから、ペルソナの悩みを反映させてヒアリングして作ったコピー、開発した商品なのに、話してくれたお客様本人も買ってくれないという事態になってしまうのです。
・ヒアリングが充分に行えない
「この商品を買ってくれるのはどんな人か」でペルソナを決めて、その人にヒアリングをしたとします。
ヒアリングの目的は、悩みの深掘りや、普段どんな言葉を使っているか、などです。
ヒアリングをする事業主は、既に商品がありますから、その商品の特長に即した聞き方をしてしまいます。
例えばチョコレートを売っている事業主がペルソナに、「甘いものを食べたいのはどんな時ですか?」と聞くとします。
「自分へのご褒美で、ついつい買っちゃうんですよね」と答えたとしましょう。
すると「自分へのご褒美に」をコピーにして売ればいい、と考えられそうです。
しかし本当はそのペルソナが、「ついつい甘いものを買ってしまう癖を直したい」と常々思っているとしたらどうでしょうか。
チョコレートを販売している人にとって、その人は本当に最適なペルソナなのでしょうか。
ヒアリングする事業主は、その一番深いところにある悩み・問題にまで到達しないでヒアリングを終わりにしてしまうでしょう。
ペルソナ設定が誤っているのに気づかず、商品が売れない事態になってしまいます。
売上に繋がるペルソナ設定のやり方とは
ここからは、設定しただけでは終わらない、売上に繋がるペルソナの決め方について解説します。
ペルソナシートを埋めることが目的になってしまっている方や、ペルソナを設定したのになかなか商品が売れなくて困っている方はぜひ参考にしてください。
「買ってもらいたい人」では足りない
商品が先にあって「これを買ってくれるのはどんな人か」という考え方が誤りであるというお話をしてきました。
商品ありきのペルソナ設定は、悩みが深掘りできず、本音を引き出せないヒアリングで終わってしまう可能性が高くなるためです。
では本来の、正しいペルソナ設定はどのようにやればいいのでしょうか。
単純に考えれば、商品ありきがダメなのですから、「商品を考える前にペルソナを決める」が正しいということになります。
しかし、正しいですがそれだけでは足りません。
ペルソナを先に決めると、商品は無くてもやはり「こういう人に買ってもらいたい」気持ちが出てしまうからです。
「こういう人に買ってもらいたい」という人をペルソナにしてうまくいくなら、誰もがお金持ちで、財布のヒモが緩く、悩みの解決や願望をかなえるためならいくらでも出す人をペルソナにしてしまいます。私もそうします。
でも、それではうまくいかないのは想像できるでしょう。
なぜうまくいかないのでしょうか。
ペルソナを設定するときに自分に問いかける質問がある
ここで、ペルソナを決めるときに思い浮かぶ人物像について、こんな質問を自分に投げかけてみてください。
・その人が悩みを吐露してきたら、嫌がらずに喜んで聞いてあげられますか?
・その人が困っていることがあれば、無償でも助けてあげたいと思いますか?
・その人が隣に住んでいるとしたら、時々立ち話するくらい仲良くなれますか?
・その人の話に共感できるポイントが多すぎる!と感じますか?
・その人が置かれている立場が以前の自分と重なりますか?
または未来の自分が抱きそうな不安や悩みを、その人が抱えているように感じますか?
・「特定の分野の知識量においては、その人より自分の方がちょっと(たくさん)詳しい」と言えますか?
・その分野について聞かれたらいくらでも教えてあげたい!と思いますか?
「ペルソナ=お客様になってほしい人」でもない
先に挙げた、「お金持ちで財布のヒモが緩い人」が悩みを吐露したら聞いてあげられるし、困っていることがあれば無償で助けてもいいかもしれません。
なぜなら見返りがありそうだから。
でも、隣の家に住んでいるとしたら仲良くなれるかどうかはまた別の話です。
そこまで関わりたくない人かもしれません。
そして共感ポイントもなさそうです。
ということは、「お金持ちで財布のヒモが緩い人」はペルソナにはできないのです。
思わず助けてあげたくなる、共感ポイントがある人
では、もっと前に挙げた、マッサージ院がペルソナにした子育て中の加藤文子さんはどうでしょうか。
これはマッサージ院の事業主がどういう人物かによって変わります。
事業主自身が、子どもはすでに大きくなったけど子育て真っ最中の間は本当に体が辛くて大変だったという思いがあって、同世代の友人やパパ友・ママ友とそんな愚痴をよく言い合っているのであれば、ペルソナになりそうです。
加藤文子さんが隣の家に住んでいて、朝、保育園に行こうという時にお子さんがグズグズしてなかなか自転車に乗らないでいるようであれば、ちょっと声をかけたくなるでしょう。
あまりにも疲れた顔をしていたら、「何か手伝えることはないかな」と心から思うでしょう。
思わず「自分も昔、ああだったなぁ」と感じてしまうでしょう。
そういう気持ちが自然と芽生える相手が、ペルソナです。
しかし、事業主自身は子育て中の体の辛さを体験したことがなく、そういうことを愚痴る身近な友人や兄弟姉妹がいるわけでもない、ただ自分のマッサージが15分で効き目抜群だからそういう人に刺さるかなと思っただけ、というのであれば、その人にとって加藤文子さんはペルソナにはなりません。
イエス!と断言できると刺さる商品・メッセージが作れるようになる
助けたいか?自分や友人・兄弟姉妹と重なるか?愚痴を聞いてあげたいか?
と、自分の心に質問してみてください。
「うーんまぁ」程度ではなく「はいもう!絶対イエスです!」と答えられる人だけをペルソナにできます。
そうやってペルソナを決定してから、商品を作っていきます。
すると、
「どうやったらあの人を助けられるんだろう?」という視点で商品開発ができるようになります。
その商品がどれだけ欲しいものなのか、自分でもよく理解できるようになります。
そのようにして生まれた商品は、必ずペルソナの心に刺さり、売上に繋がっていきます。
「絶対にイエスです!」と答えられる人をペルソナに定めたら、それから商品設定、商品開発をしていきます。
表面的なペルソナ設定では充分に実施できなかったヒアリングが、無限にできるようになります。
寄り添って愚痴をいくらでも聞いてあげられる人ですから、実際に聞いて、何時間でも話をすることが可能だからです。
そして本音のお悩みも明らかにしていくことができます。
どんなことで葛藤するかも、手に取るようにわかるはずです。
お悩み、あったら助かるもの、いくらくらいなら出せるか、どんな言葉が刺さるか・・
こういったことを考えるのは、正しくペルソナ設定をしていれば全く苦ではなくなるのです。
本来のペルソナ設定をすることで楽しく売れるようになる
「ペルソナ設定」という言葉が独り歩きして、ペルソナシートを埋めればOKだと勘違いしている人が増えているように思います。
しかし本来ペルソナシートは「埋める」ものではなく、「書き始めたら止まらなくてあっという間に埋まってしまう」ものです。
もしあなたが、ペルソナを設定したけど商品が全然売れないと悩んでいるなら、ぜひここで紹介した、本来のやり方に立ち戻ってください。
ヒアリングも、コピーを書くのも、商品開発も、全てが楽しくなり、売上を順調に伸ばしていくことができるようになるでしょう。